週刊金曜日 編集後記

1058号

▼ラグビー日本代表の試合っぷりが見事だ。海外チームと試合をするときの歴代日本代表といえば、チャンスと思いきやポロっとボールを落とし「あー......」。攻められて危ないと思えば相手にすいすい抜かれ「あー......はぁ」。これが定番。いつの間にあんなに強くなったんだ! 集団行動ダメダメ人間で、「自らの体を投げ出して献身的なプレーを」的な言葉が聞こえると全力で逃げる私だが、W杯での日本代表は集団として楽しげで、創造的で、いいなあと思う。
 一方で呆れたのが、大阪の中学校の体育祭で10段の人間ピラミッドをつくる組体操中、怪我人が出たというニュース。「組体を通して子どもたちに学ばせたいことがあります。/一生懸命に取り組むこと/仲間を信頼すること(略)」(関西体育授業研究会の会報)だそうだが、学べないでしょ。少なくともそんな「集団訓練」から、未来のラグビー日本代表は生まれないと思う。 (小長光哲郎)

▼英国の左派的でラディカルな出版社、ゼッド・ブックスの記事が『ガーディアン』のサイトに掲載された。ユーロ圏の危機によって、ラディカルな出版社の本が新しい読者を獲得したという内容だ。
 ゼッド・ブックスは、労働者が対等で一律の賃金で働くワーカーズ・コレクティブが運営する。ギリシャのヤニス・ヴァルファキス前財務相の『グローバル・ミノタウロス』を今年再版したところ、彼の財務相就任・辞任、ギリシャの国民投票という一連の出来事で、彼の本に注目が集まった。ギリシャ国民が緊縮財政に対してノーを突きつけた事をユーロ経済のエリートはどう思うか。記事で引用されたブレヒトの詩「解決」は、1953年の東ドイツ労働者の蜂起へのスターリニストの対応を風刺したものだ。「それならば/いっそ早道ではなかろうか、政府が人民を解散して/別の人民を選出するのが?」。日本の現状について、この詩がネットで触れられていた事を後で知った。 (樋口惠)

▼こんなこと書くと年がばれますが、私が子どものころは中国残留孤児の肉親捜し訪日団が来日すると、テレビや新聞で一人ひとりのプロフィールが紹介されたものでした。「孤児」というけどみなさん明らかに大人だし、「日本人」というのに日本語が話せない----まだ子どもだった私には謎だらけでした。しかし、大人になって当時の歴史を知り----それは棄民の歴史でもありますが、愕然とした覚えがあります。
 9月18日号でご紹介した中国残留孤児の中島幼八さん。自費出版した『この生あるは』の中国語版出版にともない、中国各地を訪問なさっています。訪中の様子や中島さんの半生は、中国中央電視台のインタビュー番組「面対面」(URL・http://bit.ly/1FRP5R8)や、鳳凰テレビ(URL・http://bit.ly/1hl3dql)で紹介されています。ご興味ある方は、ぜひご覧になってみてください。 (渡辺妙子)

▼「仮面ライダードライブ」が終了した。ロイミュードという機械生命体を開発した天才科学者が王となって人類を支配しようとする話だ。てっきり機械生命体を操って征服するのかと思っていたら、真の目的は人間をロイミュードのようにナンバリングしてデータ化することだった......。物語ならたわいもないことだが、現実だとやっかいだ。マイナンバー制度である。詳細は本誌特集に譲るとして、これって「一億総活躍社会」ならぬ「一億総管理社会」ではないか。安保法制の次は国家総動員体制へ。この国は戦前か、いやもはや戦争状態なのか。9月14日臨時増刊号『特別編集 戦争への不服従』では、通常号では読めない辺見庸さんと高橋哲哉さんの対談を掲載し、読み応え充分。増刊号は現在も書店で好評発売中、ぜひお買い求めを。さらに本誌好評連載の「『戦後』の墓碑銘」も再構成して単行本で発売中。「戦後」と決別するために安倍政権を倒す。たたかいはこれからだ。 (原口広矢)