きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「黴(かび)」 金曜俳句への投句一覧(6月22日号掲載=5月末締切)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です

選句結果と選評は『週刊金曜日』6月22日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。

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予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。配送料は無料です。

【黴(かび)】
黴毒の検査ひと代の生業に
私寝る床の黴様発酵中
壁に黴五十音図の貼られあり
数Ⅰと黴を展開して記せ
文箱の黴のにほひや時淀む
黴生れし饅頭母の天麩羅に
蔵出しのジャバラカメラのレンズ黴
黴ごとき笑い飛ばせりお母ちゃん
生き生きて死に死に死んで黴の花
もの思ひ黴生えやすき右脳かな
みそ黴を避けて作った御味御汁
黴を噛むチーズを好む妻と住む
荒磯の海の家とは黴の家
黴臭う学生帽の捨てられぬ
黴生えて私も地球の一員ね
版木なき絵の真贋や黴の宿
黒黴をぐいとこねだす翁かな
別名は猫屋敷なり黴の家
精神のとどまるままに書庫の黴
黴生えて自然に帰れと人の言う
立てかけた大正琴に黴匂ふ
麹黴杜氏その手を休めずに
黴の宿座敷童と腕相撲
黴舐めたあつぱれな奴美代太郎
青黴の中より小僧ぬつと出る
旅終えて手足を伸ばす黴の家
黒黴の目立たぬチェジュの玄武岩
奥駈の足解きたる黴の宿
受付は白きエプロン黴の宿
黴くさき背広は捨てて緑濃し
不条理な勝者の戦史黴にけり
黴生るるとき健やかな音を立て
青黴もクワトロチーズピッツァかな
黴臭き山荘に来て何思う
黴除けて仕込みし味噌の生き返る
黴の香や空き家のままの父の家
イタリアで求めしバッグに黴来たり
青黴のままにしてある古銭かな
味噌樽は黴となじんで梅雨明ける
靴の黴知床半島描きけり
「蒼ざめた馬」とふ背文字黴てをり
ストーリーだけ思い出す黴煙
黴兆すキャピュレット家のバルコニー
黴の宿ハイヒールの音迫りくる
黴煙立ていさかひをしまひにす
駆け落ちをする前日の黴退治
天金に黴兆したる詩集かな
教会の掃除当番黴給ふ
保存剤に護られてゐし黴の候
何もかも黴の生えたる我が家かな
鳩時計昼も告げずに黴の中
数Ⅰの記号が踊りそして黴
黴ふける写真再び筐底に
ひたすらに観察さるる麹黴
我輩の爪に咲きたる黴の花
残された指紋も元気黴生える
あの頃の登山靴さへ黴やすき
味噌つくる黴が生きのぶ復興や
人類の亡き後黴が引き受ける
今更に嫁ぎしころの黴払ふ
臨終のパンには黴の胞子かな
黴の宿廊下のすみの木馬かな
先生に黴のもろとも本もらふ
モリス柄壁紙を這う黴の恋
線香と黴の香に慣れする覚悟
ゆくゆくは我もかくなる墓誌に黴
下駄箱の黴のにほひや夏來る
断食の男の部屋のパンと黴
吊すまま背広にうすら黴しのぶ
裏口のひっそりと黴長寿かな
週一度泡につつまれ黴の声
仏前に黴の生えたる哲学者
真贋の落款かびて読めざりし
黴の家に夢を結びに通ひけり
食パンの聖顔布めく黴の花
美しく咲け恋文の黴の花
足下に黴を生やしてブッダ立つ
絶へかかる緑の素の森の黴
軍港の音は幻聴黴の宿
涙さえ栄養にして黴育つ
千年を黴が住み込む文化財
地球がネ一揺れしては黴払う
百とせの月に照らさる黴の家
黴を見て少しはたきて鼻を寄す