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風速計

個として、共に生きるために(田中 優子) 2011/3/25

 東日本大震災には言葉を失う。何を書けば良いかわからない。しかし言葉を失わない人もいるようで、元気なお説教おじさんたちは、この時とばかり四方八方にわめきちらす。別段かまわないのだが、それが都知事という職にあったりすると、東京に暮らす人間として恥ずかしさで赤面する。あの津波の情景を見て、また、子どもたちの生き抜く姿やその涙を見て、放射線検査を受ける赤子を見て「やっぱり天罰だ」という言葉を吐ける人間は、この地球上、そうはいないだろう。

「日本人の我欲」が天罰の理由だそうだが、そうであるなら、なぜその罰はあなたの上に下らないで、つつましく生きてきた東北の被災者たちの上に下ったのか。ほんの一瞬でも、その疑問が心をよぎらなかったのだろうか?

 親の姿を見失って探し惑う子どもや、妻を求めて探し歩く人の姿を見て「日本人は」という無意味な形容をつけられる人は、そうはいないだろう。彼らの名前は「日本人」ではない。大自然の驚異に立ちすくむ人類であり、そのひとりひとりには個としての名前がちゃんとついている。今ほど、「日本」という言葉が意味を失っている時はない。日本復興などとは言うまい。被災者のひとりひとりが生き延び、生活を取り戻すことが重要なのだ。地震も津波も原子力発電の制御も、人類全体の問題である。世界中の人たちがいま日本をじっと見つめているのは、人ごとではないからである。

 共に困難に向かおうという時に自分だけ棚に上げ、「日本人よ、お前らは我欲のかたまりだ!」とエラソーに言うおじさんを、東京都民はまさかもう知事には選ぶまい。「天罰」発言は決して忘れてはならない。

 震災の二日後、渡辺京二の大佛次郎賞受賞講演を聴いた。彼は講演をこう結んだ。「人間は土地に結びついている。土地に印をつけて生き、死んだ人間の想いとつながって生きているのだ」と。大震災の後、この言葉はことさら心にしみた。彼にとって江戸とは、現代社会を根本から問い返す「もう一つの文明」であった。その文明で人が実現しようとしたことは、自立した大人であることと、支え合い共に生きることの両立であった。行政や政府に依存し期待するより、その両立こそが、これから最も重要だと彼はいう。避難現場の映像をみつめながら、私はこのことを反芻している。

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