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風速計

反日デモと民主的ナショナリズム(中島 岳志) 2010/10/29

 中国で反日デモが続いている。どうも政府がコントロールする「官製デモ」のようだが、中国政府はナショナリズムの構造的性質を理解できているのだろうか。

 B・アンダーソンが書いたナショナリズム研究の古典『想像の共同体』では「ネイションは主権的なものとして想像される」と論じられている。政治的ナショナリズムは「国家は一部の人間のものではなく、国民のものである」という主張(国民主権の要求)とセットで噴出するため、独裁的な政治体制の国家では、必然的に反政府的な民主化運動に接続する。

 政治的ナショナリズムの発端といえるフランス革命は、「国家は国王のものではなく、国民のものである」という絶対王政批判・国民主権要求がベースとなっている。革命後には、その成果として「国民国家」(ネイション・ステイト)というシステムが誕生した。「国民国家」とは「一定の領域内に住んでいる市民は、平等な主権者である」という主張に基づく国家である。

 つまり下からのナショナリズム運動は「主権」と「平等」という概念と連動する形で出てくるのだ。

 これはアジアの独立運動でも見られたナショナリズムの形態である。丸山眞男はこのような現象を「ナショナリズムの処女性」として擁護し、「民主」を推進する健全なナショナリズムのあり方を探った。そして、民主的ナショナリズムが上からの国民動員のための権力的ナショナリズムに転化しないためにはどうすればいいのかという問題を、近代日本の歩みに遡行しつつ追究した。

 現在の中国政府は、反日デモを権力的にコントロールし、日本との外交を優位に進めようと考えているのだろう。しかし、反日ナショナリズムの鼓舞は、必ず独裁体制に対する民主化要求に接続する。

 実際、一〇月二四日に陝西省宝鶏市で起きたデモでは、反日スローガンが次第に「官僚腐敗に反対」「住宅価格高騰を抑制しろ」といった政府批判につながり、事前に用意された反政府的な横断幕が掲げられた。

 中国の民主化運動のリーダーたちは、ナショナリズムの性質をよく理解している。彼らは「反日」をフックにデモを盛り上げ、その流れを民主化要求に転化させていこうとしているのだ。

 隣国の民主化プロセスを、冷静に見守りたい。

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