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風速計

加藤周一への偏見(佐高 信) 2010/7/30

『新しい世界観を求めて』(毎日新聞社)という共著を出すために寺島実郎と対談して、私がこれまで加藤周一について意外なほど触れていないことを不思議に思った、と言われた。ちょっとドキッとする指摘である。『サンデー毎日』の三月二一日号のコラムで、竹内好と比較して加藤を批判したが、その時も何人かの友人から「異議あり」と不満をもらされた。

 それで改めて考えてみたいのだが、極端に言えば、加藤には偏見がないから好きになれない、ということになる。偏見などないほうがいいに決まっているではないか、と直ちに反論されるかもしれない。しかし、私は偏見にこだわりたい。いわゆる偏見を打ち砕くのも別の偏見だと思うし、第一、偏っていない見方などあるか、と開き直ることもできる。最近、二八年前に私がフリーになった時の「独立記念文集」に山田太一が書いてくれたものを再読して、なおさら、そう思った。山田は当時三七歳だった私を「偏見も適当にあって」、それがライターとしての味つけになるだろうといった意味の励ましをしている。

 寺島との前掲書では、私は加藤の知性のあり方にどこか「目黒のさんま」的なものを感じるとまで言ってしまった。

「つまり、あまり下世話に通じていないところがある。また、彼はあまり間違いを犯さない感じがします。私はそこがどうにも馴染めないんです」と。

 江藤淳と対談した時、加藤周一に江藤が、神楽坂の料亭で遊びたいので紹介してくれと頼まれたと打ち明けられた。江藤は「野暮天が行くからよろしく」と電話し、後で女将から「やはり野暮天だったわ」と言われたという。あるいは江藤の脚色があるかもしれない。しかし、加藤と同じ陣営に属する私への冷やかしのタネにもなるようなことを、加藤はどうしてしてしまうのか。加藤への偏見を消せないまま、私は竹内の指摘を読み返す。

「秀才たちが何を言うか、私だってこの年まで生きていれば大方の見当はつく。たぶんそれは全部正しいにちがいないのだ。けれども正しいことが歴史を動かしたという経験は身にしみて私には一度もないのをいかんせんやだ」

 もちろん、正しくないことが歴史を動かしていいというわけではないのだが……。

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